1997年6月号

「発想する紙/ Newton OS を考える」

さて、今月は少々趣向を変えて Newton に関連するエキスパンドブックをご紹介しよう。先日のMacWorld Expo Tokyo '97 に「エキスパンドブック横丁」というコーナーがあったことに気づかれただろうか? 実は筆者もNIFTY-Serveの FNEWTON でこの情報を知り、訪ねてみたのだが、予想に反して(失礼)お目当てのエキスパンドブックは売り切れてしまっていた。

「発想する紙/ Newton OS を考える」と称するそのエキスパンドブックは、多村えーてるさんとばけらさんの著である。ハードウエアや具体的な使いこなしに多くを割いた参考書類とは違い、 Newton Technology に対する考察が、とても興味深い作品である。偶然にもエキスポ会場で著者の多村さんにお目にかかることができ、今回はインタビューをすることができた。

ここで、簡単にエキスパンドブックのご説明をさせて頂こう。エキスパンドブックは、電子の一形態として誰もが出版できるオーサリングツールとして登場したもので、株式会社ボイジャーから発売されている。もちろん、Windows版もあり、プラットフォームに係らずブラウズすることができる。

以下は、多村さんとのインタビューである。

今里(以下省略)「エキスパンドブックってどんなものでしょう?」

多村えーてる(以下、多村と省略)「エキスパンドブックは、『電子の本』という形態で誰もが出版できるツールとして登場しました。新潮社のような大手出版社から僕のような個人版元まで、使っているのは同じツールだという痛快さを持っています。このコンセプトはホームページ作りなどに継承されていますが、モニタで文章を読む場合の文字の読みやすさについては、エキスパンドブックの右に出るものはいません。」

「エキスパンドブックの良さはどういう点ですか?」

多村「エキスパンドブックにはテキストビューワーというテキストファイルをエキスパンドブックのように表示する機能があります。これは僕のような一日中モニタの文字をながめている者にとっては、生活を一変させてしまうような福音をもたらしてくれます。いままでプリンタで打ち出さなければとても読む気になれなかった長いテキストも、テキストビューワーならすらすらと読むことができます。」

「『発想する紙』を書かれたきっかけは?」

多村「MP130 を買って一週間、 Newton の楽しさにどっぷり使った僕は「この楽しさはどこから来るのか?」と考えました。思いつく限りのことをメモし、エキスパンドブックにまとめたのが『発想する紙/ Newton OS を考える』です。2月に開かれたマックワールドエキスポでボイジャー社が開催したエキスパンドブック横丁に出展したところ、あっと言う間に売りきれてうれしい悲鳴をあげました。」

「Newton OS に関して、どのように考えていらっしゃいますか?」

多村「かつてマッキントッシュは、電脳のハサミとノリを僕たちに与えてくれました。しかし、時代の変化とともに、マックはどんどん複雑化してしまい、もとのシンプルさを忘れてしまったように思います。気軽な家電品になるには少々荷が重い。アップルの家電品市場参入の第一弾として MessagePad は生まれてきました。より直感的なペン操作のインタフェース、ユーザーの「やりたいこと」を理解する Assist 機能など、そこに込められたテクノロジーには目を見張るものがあります。」

「もう少しご説明戴けますか?」

多村「実際 Newton OS は、適当になぐり書きした内容を、文字なのか図形なのかはたまたコマンドなのか認識します。そんなちょっとしたことにこれほど CPU パワーを費やしている OS というのは他に類を見ません。まさにアップルが「電脳が家庭に入っていくとはどういうことか」と考えた英知の結晶なのです。MessagePad は「電子のメモとは何か、メモをとるということはどういうことか」をアップルが真正面から考えることから生まれてきました。人間のやりたいことを助けてくれる「あなたのことを考えてくれる OS」それが Newton OS だといえるでしょう。」

「普段はどのように Newton を使っていらっしゃいますか?」

多村「本好きの僕は、毎日かかさず本屋にでかけます。書店に入る前に、かならず MP130 を取り出します。気になる新刊本を見つけたらその場でメモするためです。本当は全部買いたいのだけど、お金も読む時間も限度があるのでそういうわけにはいきません。だから僕の Newton には、気になるけど買いそびれた本のメモが山のように記憶されています。

思い付きやアイデアをどんどんメモするハットメモ的な使い方も多いです。ノートパッドにスケッチモードでパパパッとメモして、特にテキストで入れ直すようなことはしません。キーワードに「Book」や「EB(エキスパンドブックのこと)」などと書いておきます。アルファベットはスケッチモードで書いてもダブルタップすれば MP130 はテキスト変換してくれます。

「メモなんて紙のメモでもいいじゃないか」と思われるかもしれません。でも紙のメモではバラバラに散乱してしまうという問題があります。手帳ならそういうこともないのですが、毎日持ち歩いていると紙はボロボロになってしまうのです。それに、手帳では不要になったメモを捨てることもできません。書き直しもができないという問題もあります。 MP130 はどんなにたくさんメモしても体積は増えないし、紙のように痛むことはないから、メモ帳にはぴったりです。保存のための操作が不要なことも見逃せません。まさにハットメモには最適なのです。」


さて、皆さんはこのインタビューを読まれてどのように思われただろうか?昨今取り上げられることの多い、Windows 97 マシンと Windows CE 機が、単純に「デスクトップ機の情報をかいつまんで持ち歩けるようにする」だけのように見えるのに対して、 Newton OS 機の場合は、いかにしてユーザーの事を助けるかという点に重点が置かれている。両者を比較することに、果たして意味があるのだろうか?

この「発想する紙/ Newton OS を考える」を読むと、普段楽しく使っている Newton Technology の素晴らしさがどこにあるのか、大変整理されたかたちで理解することができる。また、後半には MessagePad 2000 と eMate 300 に実際に触ってみたインプレッションも紹介されていることを付記しておこう。

Personal Digital Assistance という言葉を考えたのが Apple Computer Inc.なら、この名前を捨てて MessagePad 2000 というハンドヘルドコンピュータを発表したのも Apple である。米本国では、大変な売上を記録していることが発表されている。この記事が皆さんの御手元に届くころには、果たして日本語対応版の MessagePad 2000 が発表されているだろうか?


この文章は1997年5月18日発売のMACLIFE誌に掲載された記事です。従って現時点での情報と異なる点があることを予めご了承ください。